統計力学は、後の量子力学で使うだけでなく、力学などのシミュレーションでもしばしば顔を出してきます。
ここでは、統計力学の教科書をレベル別に紹介いたします。
統計力学と熱力学を一緒にやる理由
講義では、熱力学と統計力学を一講義で行うところが多いようです。
名前が違うので、別々の講義にしても良さそうなのですが、一講義で学習するのです。
テキストも、熱力学、統計力学単独のテキストもありますが、
「熱・統計力学」
とまとめているテキストもあるぐらいです。
不思議だと思いませんでしたか?
一講義の中で学習するのには、訳があります。
元々、熱力学は1800年代に発展した学問です。
しかし、熱力学では力学のように一つの物体に注目するのではなく、個々の分子には目をつぶり、巨視的な見方に立って学問が構築されていきました。
これは一つ一つの物体の動きを正確に記述することによって成功を収めてきた「力学」からみたら摩訶不思議な出来事でした。
一つ一つの物体の動きがわからなくても、全体としてうまく説明できるという事実です。
つまり、力学は微視的な法則を元にしており、熱力学は巨視的な法則を元にしているのです。
熱力学の学問と力学の学問は、まるで違っていたのです。
そこで、熱力学を力学と同じように微視的な法則から導き出そうという試みがなされました。
これが統計力学の始まりです。
その後、統計力学も大いに発展しました。
でも、出発点から考えると、熱力学を学んだ後、すぐに統計力学を学習した方が効率的です。
そのため、熱力学と統計力学が同じ講義に入っている理由なのです。
統計力学は難しい?
統計力学には、時間的平均をとった概念やエネルギーなどの分布を考える概念が出てきます。
また、大きな数も扱いますので、それに対応した近似式もでてきます。
そのため、例えば積分1つとってもN重積分が出てきたりするので、複雑な式に見えてしまうことが、難しく感じさせる原因になっているようです。
さらに、統計力学のテキストはたくさん出版されていますが、求める学習の前提条件が高いテキストもあり、そのようなテキストに当たってしまうと、理解するのが難しくなってしまいます。
特に数学の記号は知っているという前提で書かれていること多く、独学で学習するのが困難になっている原因でもあるのです。
そこで、院試活では入門書からステップアップしたテキストまで、おすすめの参考書を紹介いたします。
おすすめのテキスト
熱力学からの流れで読むエントリー編
熱力学の参考書のページでも紹介した参考書です。
名前は「熱学」になっていますが、熱学だけでなく統計力学の入門書としても活用することができます。
内容は、
- 巨視的熱学と微視的熱学
- 熱力学第1法則
- 熱力学第2法則
- 熱力学関数と平衡条件
- 気体分子運動論
- 古典統計力学の基礎
- 統計力学の方法
- 熱的ゆらぎ・エントロピー
- エネルギー等分配則の破れ
- 量子論のあけぼの
- 原子論の勝利
- 量子統計力学
となっています。
このため、熱力学の流れで統計力学のさわりを学習することができます。
院試でも熱力学に関連した統計力学の問題が出題されることもあります。
院試の面でも、熱力学からの流れで学習するメリットはあると考えます。
ただし、第7章以降の統計力学の話の部分は位相空間の話が出てきますので、位相空間について深く学習したい時には、
などで、学習しておくとよいでしょう。
(参照:熱力学)
入門書としておすすめの本
「なるほど統計力学」は、章ごとに
- 基本的事項の説明と基本式の導出
- でてきた式のすぐ後に、より理解を深めるための演習問題
という流れで書き進められています。
統計力学が難しいと思う理由の一つに、式をどのようにして導出したのかわからないという問題があります。
「なるほど統計力学」は、式の導出を丁寧に展開しているだけでなく、式の導出で用いた別の式についての解説もあります。
式の導出で道に迷うことがないように配慮された構成です。
また、解説もわかりやすい表現で簡潔にまとめてあるのも特徴です。
ただし、式の導出のすぐ後で演習などの項目が入っているため、全体の見通しが少し悪くなっています。
全体の見通しについては先に紹介した、「熱学入門―マクロからミクロへ」などでさっと見ておくと、より効果的です。
目次
- 分子気体運動論
- 熱力学
- 熱力学関数と微分形
- エントロピーと状態数
- ミクロカノニカル集団
- ミクロカノニカル分布の応用
- カノニカル集団
- グランドカノニカル集団
- 量子統計
- 理想フェルミ気体
- 理想ボーズ気体
熱力学の項目と重複する部分がありますが、熱力学を既に学習したという方は、熱力学の復習として、読み進めていけばよいかと思います。
※応用編も発売されました。
より深く統計力学の入門を学習したいときにおすすめです。
- ボルツマン因子
- 統計力学の手法
- 分配関数
- 積分形の分配関数
- 大分配関数
- 2原子分子気体
- 光のエネルギー
- 格子比熱
- 相互作用のある系
- 相転移
- 量子力学への応用
セカンドステップ(中級編)
数理的な面に重点が置かれた参考書
できるだけごまかしのなく、数理的な面に重点をおいて説明することに務めている参考書です。
そのため、やや議論が難しい部分が出てきますので、一度統計力学の概要を学習した方が、本格的に学ぶのに適しています。
統計力学Iは、統計力学の基本部分がメインであり、統計力学IIは統計力学の応用という位置づけになっています。
CGS系で統計力学を学ぶ必要のある方向け
昔より名著と呼ばれているテキストです。
ただ、著者が亡くなられており、さらに出版されてからかなりの年数が経っているので、用語が当時とは違っていたり、記述が古めかしく感じる点は否めません。
さらに、出版された当時はエネルギーの単位が「erg(エルグ)」などになっているため、SI単位系で説明することが多くなった今では、やや違和感を覚えるかもしれません。
ただ、相対性理論や天文学などの最先端の研究では、いまでも「erg(エルグ)」などが使われており、どちらかというと、研究で「erg(エルグ)」などの単位を使う人が読むのに適しているテキストです。
上級編
「ランダウ・リフシッツ理論物理学教程」統計物理学
様々な分野の深い考察がなされている点が評価できます。
ただし、初歩的な内容は既に理解済みのこととして話を進めていくので、いきなりこの本を読むのはかなり大変です。
基礎を固めた上で、この本に挑むとよいかもしれません。
なお、日本語版は絶版になりやすいので、売り切れになる前に、すぐに購入することをお勧めいたします。
なお、絶版の際には英訳版も出版(こちらはKindle版も入手可能)であるため、英訳版を入手して学習してもよいでしょう。
- Statistical Physics, Part 1, 3rd Edition (Course of Theoretical Physics, Vol. 5)
- Statistical Physics: Theory of the Condensed State (Pt 2)