熱力学の実験結果

熱力学は学習時間が少ない?!

熱力学は物理系だけでなく、化学系でも応用される重要な科目です。

特に磁性体や相転移を扱うところでは、外せない分野です。

とはいえ、物理系の学科では、講義時間の関係で熱力学単体での学習ではなく、統計力学も合わせて一つの講義の中で学習することが多いため、じっくりと学習できない可能性が高い教科でもあります。

そのため、化学系などの他の学科が物理系の熱力学の講義で代用する場合、磁性体や相転移などを扱う部分は講義で触れないかもしれません。

 

また熱力学は、統計力学や量子力学へと発展していきますので、次のステップへ進むためにも外せない分野でもあります。

講義は、大学の1年生か2年生(場合によっては3年生)で行うことが多いようです。

講義時間の関係上、あまり時間をかけることができない分野でもありますので、テキストで学習しつつ、講義の開講している学期中にマスターできるようにしましょう。

熱力学おすすめの参考書

初めて学習する人向け(入門書)

熱力学は数式は理解できるけれども、どうも概念がピンとこないと思うかもしれません。

力学は、例えば二つの物体の運動についてどのような変化があるかを追っていくことができます。

それに対し熱力学は、個々の分子の運動には目をつぶって系全体としてどう振る舞っているのかを考えるため、イメージしづらいことが原因だと思われます。

同じ「力学」とついているにもかかわらず、一つ一つの分子に何が起こっているのかという力学の概念が通用しない部分で、つまづいているのかもしれません。

 

でも、系全体でどう振る舞っているかという部分は、熱の移動だったり、相転移(水が氷にかわったり、水蒸気になったりすること)で日常で見られる現象でもあります。

熱力学は系全体として見たときにどのように取り扱うのかを学習する分野であるということをテキストを通じて学びます。

ただし、相平衡や化学平衡、ファン・デル・ワールスの状態方程式については出てこないか、軽く触れる程度です。これらを必要とする場合には、後述の「基礎物理学 熱学 小出昭一郎著 東京大学出版会」や「熱力学の基礎 清水明著 東京大学出版会」で確認するといいでしょう。

スタンダードな入門書

古くからある物理入門コースの新装版です。

内容は旧版のハードカバー版と変わりません。

紙が薄くなり、かさばらなくなって軽くなったということと、Kindle版が出版されたという違いがあります。
内容は

 

  1. 温度と熱
  2. 熱力学第1法則
  3. 熱力学第2法則
  4. 気体と分子
  5. 気体分子の分子確率
  6. 古典力学的な体系
  7. 量理論的な体系
  8. 量子論的理想気体

 

と、基本的な内容を熱力学からスタートして統計力学にスムーズに移行できるような内容になっています。

学問の作られ方を学びながら熱力学を学ぶならこれ!

名前は「熱学」になっていますが、他のテキストの「熱力学」と同じ範囲をカバーしています(この参考書の解説のみ「熱学」と記載します)。

物理学序論としての 力学 (基礎物理学1) と同じ著者が企画していました。

力学(基礎物理学1)の姉妹書に当たるといってもいいでしょう。

 

この本は、(中略)熱学の入門書であると同時に、熱学を題材として学問が構築されてゆく過程を示すことにより、若き読者が学問をすることの面白さに目覚めることを念願して書かれた啓蒙書でもある。

熱学入門 東京大学出版会 まえがきより

 

まえがきに書いてあるように、歴史的発見の課程を知ることで、今でも観測や実験、理論のヒントになりえる考え方を学ぶことができます。

内容は、

 

  1. 巨視的熱学と微視的熱学
  2. 熱力学第1法則
  3. 熱力学第2法則
  4. 熱力学関数と平衡条件
  5. 気体分子運動論
  6. 古典統計力学の基礎
  7. 統計力学の方法
  8. 熱的ゆらぎ・エントロピー
  9. エネルギー等分配則の破れ
  10. 量子論のあけぼの
  11. 原子論の勝利
  12. 量子統計力学

 

となっています。

前述の「熱・統計力学 (物理入門コース 新装版)」と同じような流れですが、歴史的発見の史実に触れながらも、熱学の基本的な内容を学ぶことのできるよう構成されている点です。

学問の作り方を歴史とともに学びながら、熱力学の基本を学習するのに適しています。

 

ただし、第7章以降の統計力学の話の部分は位相空間の話が出てきますので、しっかりと学習したい時には、

 

集合・位相入門 (松坂和夫 数学入門シリーズ 1)

 

などで、学習しておくとよいでしょう。

上記のテキストは、数学科の入門書としてもよく知られているテキストです。物理系の学生が見ると、すごく抽象的な内容に見えますが、物理の専門課程でも抽象的な概念を扱うので、ここで慣れておくことをおすすめします。

ポイントは、あせらず文字や記号の意味を確認しながら読むことです。

数学のテキストが難解だと思われる理由の一つが、見たこともない記号がたくさん出て、その意味がわからないことです。

入門書では、大抵その意味がどこかに書かれていますので、一つ一つ確認することで読み進めることができます。

最初は時間がかかりますが、慣れてくるにつれて読むスピードが上がってきます。

磁性体・相平衡と化学平衡の概要が必要なときのテキスト

熱力学全般について、基本的な内容はほぼ書かれています。

数式の展開が省略気味である部分がありますが、この部分は別の入門書で補うことでフォローできると思います。

磁性体(基本)、相平衡と化学平衡についてそれぞれ1章分解説に充てています。

もちろん、ファン・デル・ワールスの状態方程式についても触れています。

専門分野でこのあたりを使うようであれば、フォローで読んでおくといいでしょう。

本格的に熱力学を使うときに読むテキスト

 

以下の二つのテキストは、完成された熱力学の状態を提示しているテキストです。

完成された状態の熱力学を提示していますので、熱力学全体の見通しはよいものになっています。

しかし完成された状態の熱力学を提示しているため、数学的な要素が多く、またテキストに数学の説明がありますが、いきなり読んだときに数式を追っていけない可能性もあります。

以下に紹介するテキストは、数学でわからない部分を別の数学のテキストで学習しつつ、読み進めていくスタイルです。

概略を入門編のテキストで学んでから、数学をフォローしつつ、以下のテキストのいずれかを学習すると熱力学の面白さがより深まることでしょう。

もし、講義で以下のテキストが指定されている場合には、講義中や後の時間に先生に質問することが可能ですので、最初からこのテキストを読んでも、わからない部分を解決しながら読み進めていくことができるでしょう。

熱力学のテキストの最終目標は、以下の二つのテキストのいずれかです。

熱を定義しないで解説したテキスト

熱力学のテキストは、温度の定義から入るものが多くなっています。入門編で紹介したテキストも温度の定義からスタートしています。

熱というものが非常に重要な概念であるため、熱が主役になっているものです。

しかしこのテキストでは熱が主役ではなく、操作的に定義する「仕事」が主役になっています。

エネルギー(ヘルムホルツの自由エネルギー)を基準点と最大仕事の差から定義することから始まります。

この利点は、

 

  • エントロピーが明示的に定義できること
  • 相転移などの特異性があっても、問題が生じないこと
  • 力学で慣れ親しんだエネルギーという概念を用いて、熱力学も展開できること

 

です。

特にエントロピーの解説の部分は、直感的でやや強引な展開をもつテキストが多くなっています(入門書も直感的な部分があります)。

しかしこのテキストでは明示的に定義しているので、ぶれることはありません。

 

本書の構成は

 

  1. 熱力学とはなにか
  2. 平衡状態の記述
  3. 等温操作とHelmholtzの自由エネルギー
  4. 断熱操作とエネルギー
  5. 熱とCarnotの定義
  6. エントロピー
  7. Helmholtzの自由エネルギーと変分原理
  8. Gibbsの自由エネルギー
  9. 多成分系の熱力学
  10. 強磁性体の熱力学

 

となっています。

相平衡や化学平衡、強磁性体についての項目あり、これらを学習する必要のある人にとっては無理のない展開で読み進めていくことができることでしょう。

ただし、数学については必ず自分で追って、式を自分でも組み立てることのできるよう手を動かすことをおすすめします。

熱力学の論理構成を学ぶテキスト(基本から応用まで)

 

(※2021年夏頃第2巻発売予定)

このテキストは、歴史的な展開の順に熱力学を追っていくのではなく、熱力学の基本的な論理構成を追っていく形に作られています。

熱力学を歴史的な発展とともに学習する場合、学問の構築について深く学ぶことができます。

これはこれで必要な要素です。

なぜなら、今でも研究して学問が作られてきているのですから、学問の作り方を学ぶ上では非常によい教材なのです。

とはいえ、徐々にわかっていく課程で、当初考えられていて内容では適用できないモデルも発見されます。

歴史的な発展は、学問が少しずつ作られてくる課程を追っていく関係上、未完成な部分が出てきてしまいます。

もちろん、これは後に修正されたり、訂正されたりしますが、完成された状態の見通しのよい熱力学を見通すのは少し難しくなってきてしまいます。

このような問題を解決するための方法の一つに、完成された状態のテキストで学習するというものがあります。

第2版では、初版の説明不足だった点の改訂、上長だった部分のスリム化などの改良を加えただけでなく、第1巻の物理系の標準的な熱力学のカリキュラム+第2巻の熱力学的安定性・相転移・化学熱力学・外場で不意均一が生じる系の熱力学等応用にも触れています。

カリキュラム上、物理系の熱力学と化学系の熱力学では、同じ熱力学でも重要視する部分が異なりますので、使うテキストが異なることが多いです。

しかし、このテキスト(2冊)を用いることで、物理系の熱力学と化学熱力学(第2巻も活用)の内容を学習することができるようになります。

目次は以下のとおりです。(第1巻 1-14、第2巻 15-21)

  1. 熱力学の紹介と下準備
  2. 「要請」を理解するための事項
  3. 熱力学の基本的要請
  4. 要請についての理解を深める
  5. エントロピーの数学的な性質
  6. 示強変数
  7. 仕事と熱――簡単な例
  8. 準静的過程における一般の仕事と熱
  9. 2つの系の間の平衡
  10. エントロピー増大則
  11. 熱と仕事の変換
  12. ルジャンドル変換
  13. 他の表示への変換
  14. 大きな系・小さな系
  15.  熱力学量を別の熱力学量で表す方法
  16. 熱力学的安定性
  17. 相転移
  18. 秩序変数と相転移
  19. 化学への応用
  20. 外場で不均一が生じる系の熱力学
  21. 統計力学・場の量子論などとの関係

 

数学を使いますが、数式の展開に傾斜するのではなく、意味や説明もしっかりと書かれている点で非常に優れています。

統計力学の教科書。エントリー編から上級編までを紹介!

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