大学では、常微分方程式は物理のどの分野でも必ずと言っていいほど出てきます。
高校で微分・積分をやっており、場合によっては微分方程式の解法を授業で学習していることもあり、なんとなく解けてしまうかもしれません。
でも、あるとき気がついたら突然難しくなっていたということも・・・。
ここでは、常微分方程式の参考書を紹介いたします。
物理のテキストにすぐ出てくる微分方程式
大学の物理では、微分・積分を使って物理法則を学習していきます。
単に微分・積分の焼き直しではありません。
微分・積分を使って方程式を解くことになります。
すなわち、微分方程式が登場することになるのです。
微分方程式を立て、それを解くことで、高校では扱うことができなかった、空気抵抗などの力を考慮した物体の運動を調べることができるようになるのです。
力学から微分・積分が出てきますから、物理を学習するとすぐに微分方程式が出てくることになります。
物体の運動のところからして、出てくるのです。
ただ、そこにでてくるものは、微分方程式とは意識しなくてもいいように書かれていることが多いので、気がついたらできていたということになります。
微分方程式は簡単だと思っていたら・・・?!
高校までの数学では、必ずしも授業で微分方程式を扱わなくてもよいカリキュラムになっています。
授業で触れるにしてもさっと触れる程度で、高校で十分な学習できているわけではありません。
しかし、大学の物理のテキストでは高校で微分方程式を少しでも学習しているという前提で作られているテキストが数多くあります。
初めのうちは、微分・積分の知識で十分対応できます。
そのため、微分方程式もどうにか対応できてしまうと思ってしまいがちです。
ところが、微分方程式は意外と奥深い単元なのです。
物体の運動を微分方程式で記述することができます。
なかには複雑な運動を記述した微分方程式になることもあります。
実は微分方程式を立てることはできても、解くのは非常に難しいというものが圧倒的に多いのです。
わずかな初期条件の差で、結果が大きく異なるような現象すら見つかっています。
カオスと言われるものです。
カオスは今なお研究が行われている分野でもあります。
それだけ、奥深いものなのです。
そのため、なんとなく微分方程式が解けてしまうから大丈夫だと思ってそのまま流してしまうと、気がついたら微分方程式を解くことができなくなってしまったということになりかねません。
微分方程式を解くことができなくなると、物理の問題を解くことすらできません。
これは、これから先の物理の講義でついて行くのが難しくなるということを意味しています。
このような事態を防ぐためにも、微分方程式を確実にマスターしたいですね。
おすすめの参考書
常微分方程式をどのタイミングで講義するかは大学によって異なりますが、物理の力学は常微分方程式の学習が終わるまで待ってくれません。
しかも、多くのテキストで、高校で微分方程式の範囲を学習しているものとして話を進めているのです。
そこで、常微分方程式の学習には3ステップに分けて学習します。
- (準備編)かつての高校で学習した微分方程式の範囲+α
- (基本編)大学の講義で学習する基本的な範囲
- (応用編)微分方程式の応用範囲
1番目の「かつての高校で学習した微分の方程式の範囲+α」は大学に入学して講義を受ける前までにやっておくと、講義の内容がより理解できると思われる内容です。
一部、大学で学習する常微分方程式の内容も含まれています。
2番目の「大学の講義で学習する基本的な範囲」は、大学で使う物理で必要な最低限の内容です。
院試では最低限、この2番目のレベルまではマスターしてください。
3番目の「微分方程式の応用範囲」は、物理現象を研究しているときに出てくるような内容です。
院試の問題に出題されるというわけではなく、研究をする上で知っておくとよい部分の内容です。
準備編
微分方程式の具体的な事例が豊富に載っている参考書
微分方程式は奥深いため、選ぶテキストによっては始めから難解な記述になっていることもあります。
この「今日から使える微分方程式 普及版 例題で身につく理系の必須テクニック」は、学習済みであるという前提をできるだけなくして、話を進めていっています。
例えば、微分・積分の説明だけでなく、対数の説明も入っています。
また、非常に簡単な例題から一歩ずつステップアップしていくよう構成されています。
そのため、微分方程式の解き方がわからない人が解けるようになるための書籍ではなく、どのような物理や化学などの分野でどのように使われているかもわかるようになっている書籍でもあります。
微分方程式ってどんなものか知りたい君や微分方程式がわからなくなってしまった君に真っ先に読んでほしい1冊です。
微分方程式の基礎を演習するのにちょうどいいテキスト
モノグラフシリーズは、一つの単元に絞って解説・演習ができるように作られた書籍です。
刊行当時の高校生が学習していた内容になります。
微分方程式の詳しい説明は大学のテキストで学習するとして、テストに出てくるような問題を解くときには、計算に慣れる必要があります。
いくら説明を理解しても、実際の問題で問題を解くことができなければ、意味がありません。
大学のテキストにも演習問題はありますが、このモノグラフに掲載されているレベルの問題は少ないです。
基礎演習が足りないと、ステップアップをしたときにつまずいてしまう可能性が高くなってしまいます。
そこで、このモノグラフで演習をするのです。
例題と問題量も適度にあり、解説もあるので、微分方程式を使えるようにするための第1歩として使うにはちょうどいいテキストです。
基本編
基本的な内容を理解するための優れた教科書
「常微分方程式 (理工系の数学入門コース) 」は、広義のテキストで指定されているところもある教科書でもあります。
2019年秋に、古くから出版されているシリーズの新装版が出版されました。
旧版と新版の大きな違いは、紙の薄さです。
旧版は表紙が厚く、かなり分厚くなっていましたが、新装版ではかなり薄くなっており、持ち運びしやすい厚さになっています。
内容については、常微分方程式の解説にはさまざまな方法があり、線形代数を学習していることが前提のテキストもあります(線形代数で学習した内容を使うと、連立微分方程式などが扱いやすくなる利点があります)。
しかし、線形代数を学習してから常微分方程式を学習するのでは、物理の学習に支障がでてしまいます。
なぜならば、力学の最初の方で微分方程式が登場するからです。
そのため、最初に微分方程式を学ぶのであれば、必ずしも線形代数を学び終えてなくても微分方程式を学習できるようなテキストで学習する必要があります。
「常微分方程式 (理工系の数学入門コース 4) 」は必ずしも線形代数の知識を必要としなくても、学習できるよう工夫して作ってあるテキストです。
内容も、物理で使う基本的な常微分方程式の範囲をカバーしていますし、方程式の解法にとどまらず、物理の例題もかなり掲載されている良書です。
目次
- 自然法則と微分方程式
- 微分方程式の初等論法
- 定数係数の2階微分方程式
- 変数係数の2階線形微分方程式
- 高階線形微分方程式 -連立1階線形微分方程式
- 微分方程式と相空間 -力学系の理論
第6章の「微分方程式と相空間」は、物理現象では深く関わりのあるところなのですが、この内容を書くとかなりの分量になってしまいますので、さわりのみになっています。
こちらは別の参考書で学習することになります。
ただ、典型的な問題を解く上では、「常微分方程式 (理工系の数学入門コース) 」に書かれている内容で十分対応できます。
この「常微分方程式 (理工系の数学入門コース) 」を読むに当たっては、線形代数の知識は必ずしも必要ではありませんが、高校までに学習する、微分・積分はマスターしておかないと、計算過程を追うのが少し大変です。
また、出版された年代が1980年代の大学書学年向けに書かれたテキストであることから、当時の高校生が学習していた簡単な微分方程式の解法や行列について
微分方程式 (モノグラフ (20))
行列 (モノグラフ (8))
であらかじめ慣れておくとスムーズです。
重要なポイントに絞って解説した参考書
このシリーズは、執筆者自身が学生時代に経験した数学の「難所」をいくつか選び出し、それらの攻略法を丁寧に解説した参考書集の中の1冊です。
そのため、微分方程式の中でも特に重要なポイントに絞って解説しています。
証明部分は天下り的な解説でもありますが、例題が豊富で一緒に計算していけば、微分方程式の中でも特に重要な部分は学習できるようになっています。
証明については、別のテキストで参照するという部分に留意すれば、比較的活用しやすいと思います。
イメージとしては、常微分方程式の例題集+その解説書という感じでしょうか。
一度常微分方程式を学習したけれども、もう一度重要部分を復習したいという場合におすすめです。
現在は、通常の書籍版は既に絶版のようですが、オンデマンド印刷版が入手可能です。
注文を受けてから印刷・製本をするので少し時間がかかりますが、新品で購入することができます。
理論と応用のバランスのとれた参考書
工学や物理系の場合、微分方程式の理論だけでなく、微分方程式をどのように使うかも非常に重要になってきます。
つまり、理論と応用をバランス良く学習する必要があります。
その中でも、「Advanced Engineering Mathematics」は、理論と応用のバランスがとれているテキストです。
さらに演習問題も豊富です。
ただ、残念なことに、演習問題の解答は非常に貧弱です。
日本語版は第8版が翻訳出版されています。
第10版とは大きな違いは見られませんが、それでもこのテキストの場合、英語版での学習がおすすめです。
理由は、テキストに掲載されている問題の解答を掲載しているサイト「Slader」があるからです。
Solutions of Advanced Engieering Mathematics at Slader
Sladerに掲載されている解答は、何名かの方が提示している解答ですので、解答の質にムラがありますが、それでも問題の答えを知るには十分です(広告が表示される欠点はありますが・・・)。
日本と海外では大学の学習方法に違いがあり、日本では自習することを前提にしているため、解答がないのは不便です。
そこで、解答のある英語版(最新版)で学習するのです。
従って、本文はテキストで、解答は「Slader」で確認するというスタイルで学習します。
「Advanced Engineering Mathematics」には日本語版も出版されていて、翻訳自体もそれなりに良いテキストです。
ただし、出版されているのは第8版であり、分冊になっています。
そして、残念なことに、演習問題の解答が奇数番号の解答のみ(解説なし)しかありません。
演習問題が豊富にあるにもかかわらず、その演習問題を自習するのが難しい状態になっているため、ここでは日本語版を勧めませんでした。
応用編
応用編では、院試では求められていないけれども、実際に研究をする際には必要になることもある内容まで記載されている書籍を紹介します。
「ポントリャーギン 常微分方程式 新版」はモスクワ国立大学力学数学科での講義から書かれています。
しかし、微分方程式とは何かから話が始まり、理論をあまり難しくなく、しかも厳密に書いてあります。
この本を読むには、基本的な解析学(複素関数含む)、線形代数を学習しておく必要があります。
物理現象には、式を立てることはできても、それを解くのが難しい方程式が出てきます。
完全に解くことはできなくても、
- 解は存在するのか?
- 求めた解は安定か?
といった内容を調べることができます。
特に、数値計算で解を求めるような場合には、
- 単に解があるのかどうか、
- 解が求まった
というだけでなく、その解が安定なのか、それとも不安定なのかを知っておくと、その先の議論で役立ちます。
微分方程式に関する解の存在定理や安定性の所で出てくるリャプーノフの定理などを知っておくといいでしょう。
「ポントリャーギン 常微分方程式 新版」はかなり古いテキストですが、今もなお絶版にならず読まれ続けているのは、微分方程式の安定性について議論が必要な数値計算の発展もあるかもしれません。
目次
- 序論
- 定係数の線形方程式
- 変係数の線形方程式
- 存在定理
- 安定性
- 補章I 解析学からの2,3の準備
- 補章II 線形代数
「ポントリャーギン 常微分方程式 新版」のメインとなる章は、「存在定理」と「安定性」の部分です。
摂動法を学びたいときのテキスト
微分方程式は、厳密解を求められるものはそう多くありません。
しかし、自然現象には厳密解を求めることができないような方程式に従った現象が数多く存在します。
特に流体力学や宇宙工学、量子力学などなど。
厳密解を求めることができなくても、近似を使って現実の振る舞いに近い解を見つけることができれば、その方法は非常に役に立ちます。
その方法が摂動法です。
けれども、摂動法も万能ではありません。
一般に広く知られている摂動法が使えないものもあります。
そのようなときでも高精度の近似解を得ることのできる特異摂動法というものもあります。
摂動法の問題点は、「永年項問題」や「構造的特異摂動問題」です。
解は求めることはできたものの、その解はどこかで使えなくなってしまう問題です。
そのような問題の解決する手段の一つとして、提示されたのが特異摂動法です。
「漸近級数と特異摂動法」は、微分方程式を使う人の立場に立って、微分方程式の高精度近似解(漸近級数)を得るための体系的方法である特異摂動法をわかりやすく解説したテキストです。
主に境界値問題を解くときに使います。
摂動法や漸近級数を基礎から解説した後、特異摂動法の三手法である「境界層理論」、「WKB法」、「複スケール解析」を扱っています。
単に体系のみを解説したのではなく、宇宙工学や音響工学、地震学への応用も掲載されています。
量子力学のWKB法を学習しているタイミングで「漸近級数と特異摂動法」も読み進めるのもありかと思います。
なお、後述の「常微分方程式の局所漸近解析」に説明が載っている概念もあります。
「漸近級数と特異摂動法」と合わせて読みたい書籍
「漸近級数と特異摂動法」の続編で、特異点や臨界点における局所漸近解析を解説した書籍です。
特に
- 極限循環軌道
- (不)安定螺旋点
- 可動特異点
- 自然発生特異点
- フロベニウス展開
といった内容を説明しています。
その他
応用編で紹介した内容は、力学や量子力学などの高度なテキストにも掲載されている場合があります。
応用編まで来ると、数学と物理の境目がはっきりしなくなるからです。
ここで学ばなくても、他のところで出てくるかもしれません。
出てきたときに学習するという方法をとっても大丈夫です。