大学の力学には2つあるって?
大学では二つの種類の力学を学習します。
そのため、力学と書かれている講義やテキスト(教科書)であっても中を見ると、自分の求めていたテキストと異なっていたという事もありえます。
大学で単に「力学」と呼ばれているものには
- 力学(質点や剛体を扱うもの)
- 解析力学
の2つがあります。
力学(質点や剛体を扱うもの)は、高校物理でも学習した内容をさらに深く学習するものです。
- ニュートンの運動方程式
- エネルギー保存の法則
- 運動量保存の法則
- 中心力
- 角運動量
- 振り子運動
- 質点系の力学
- 剛体の運動
- 相対運動
といった内容を学習します。
もう一つの解析力学は、ニュートンの運動方程式を一般化して、力学に含まれる数理の構造を明確にしようとした試みからスタートしています。
解析力学の発展により、天体力学の3体問題への研究の寄与や、量子論へと発展していくのです。
解析力学のテキストについては、別途ご紹介します。
力学(質点や剛体を扱うもの)は、高校物理のやり直し?
よく高校物理で学習した内容を微分・積分でやり直す項目だとも言われています。
しかし、実際には高校では無視してきた空気抵抗を考慮した運動や、高校では学習しない角運動量、座標変換など新たに学習する内容もかなりあります。
力学(質点や剛体を扱うもの)は物理・工学系の全ての基本となる分野ですので、高校でやった内容だからと言って軽く流すわけにはいかないのです。
力学の本来やるべき事は、モデル化を行うことです。
これは実際に起こっている現象について、数学的モデルを立て、可能であれば解析的に時、解析的に解けない時は近似や方程式の性質から振る舞いを調べるものです。
この数学的モデルを立てるときに、微分方程式が出てくることがあり、この微分方程式を解く時に微分や積分の概念を用いるのです。
実は解析的に解ける問題はほとんどなく、多くは解析的に解くことができません。
近年、シミュレーションを使った計算の結果、○○がわかったという多く耳にしませんか?
これはまさしく数学的モデルで立てた方程式をコンピューターで数値計算させて、起こった現象を調べているのです。
研究には欠かせないモデル化。
これを学習するのに一番適しているのが、高校物理でも学習した力学なのです。
しかし、大学の講義は時間が圧倒的に足りません。
そのため、講義も飛ばしがちになり、高校で学習した部分は「独学で」学習できるだろうと判断して飛ばしてしまいがちです。
ここでは、力学(質点や剛体を扱うもの)と解析力学のおすすめのテキストを紹介いたします。
なお、テキストの構成によっては、
- 完全に分かれているもの(分冊の場合は完全に分かれているものとする)
- 両者が一緒になっているもの
- 主に力学(質点や剛体を扱うもの)が記載されているが一部に解析力学の項目が入っているもの
の3種類があります。
該当の本がどの種類の本かは、見分けがつくようにつど記載いたします。
なお、テキスト(教科書)読むに当たって最低限
- ベクトル(3次元、内積・外積)
- 微分・積分(2重積分、3重積分、級数展開)
- かんたんな微分方程式を解くことができること
- 行列
の学習ができていることが前提になっています。
初めて力学(質点や剛体を扱うもの)を学ぶ君におすすめのテキスト(教科書)
力学は、物理学科のみならず理学系、工学系で広く受講が推奨される項目です。
そのため、多くのテキストが出版されており、テキストごとに特色ある味を持っています。
また、大学の講義ともなると計算がより複雑になり、計算の展開が書いてなくても追っていける人と計算が苦手な人とで同じ科目でも違うテキストで学習した方が良い場合もあります。
タイプ別のテキストを掲載しますので、好みにあったテキストを1冊学習するといいでしょう。
標準的なテキスト(教科書)
2冊分冊になって、そのうちの1巻目です。カバーは
灰色
です。
力学1は質点や剛体を扱う項目で、力学2は解析力学について触れています。
この本の特徴は、前提となる数学の知識の復習があり、式の展開だけでなく、解説も丁寧に書かれているのが特徴です。
また、次のステップとなる振動の一部(強制振動)や解析力学から発展した、振動、天体力学(3体問題のさわり)、前期量子論、特殊相対性理論の概要まで触れています。
大学で学ぶ力学(質点や剛体を扱うもの)や解析力学は、高校物理に比べると格段に計算量が増えます。
そのため、気がつくと式の展開だけを追っていたという事になりかねません。
しかし、物理は力学からスタートしています。
このテキストは、この力学を学ぶことは量子力学や相対論へのファーストステップであるということを気づかせてくれるのです。
力学を最初に学習するときに、必要となる大学数学を学習していなくても、読み進めることができるテキストとなっています。
ただ、高校数学はできている前提で話をすすめているので、これを読む前に高校数学で学習していない微分方程式の解法はフォローしておくとよいでしょう。
注:これとは別に黄色のカバーの三訂版
もありますが、こちらはどちらかというと化学系や生物系で力学を学習するときに使うのに適しています(力学のエッセンスという位置づけ)。
同じ出版社で同じ著書であるため、間違いやすいので注意してください。
理工系学生のための物理入門書
- 範囲:力学(質点や剛体を扱うもの)。
解析力学は別冊。
物理入門コースは、古くから大学の講義でテキスト(教科書)として指定されている講義もしばしば見かけます。
この本のポイントは、理工系のどの分野に進む人にとって必要な物理の基礎について、説明や例題は丁寧に書かれていることが特徴です。
そのため、どのテキストで勉強したらいいかを迷ったら、このテキストで学習してみることをおすすめします。
ただし、演習問題は簡略な答えしかないため、演習問題は別の問題集と組み合わせて活用すると効率的です。
研究者を養成する目的で書かれた入門書
- 範囲:力学(質点や剛体を扱うもの)。
解析力学は概要について記載あり。
大学の物理ともなると、計算が複雑になる分、講義も式の展開を追う形になりがちです。
力学の発展の歴史から現象の性質までを図表を交えてわかりやすくまとめてあります。
特に歴史的発見の中には、今でも観測や実験、理論のヒントになりえる考え方が満載です。
考え方を学ぶことに主眼が置かれているため、例えば剛体の力学では慣性楕円体などの項目は省かれています。
また出てきた式の考察もあり、単に式の展開で終わらないのがこの本の大きな特徴になっています。
高校物理では計算すれば必ず答えが出て解くことができましたが、実際に起こっている現象はむしろ解くことのできない問題のほうが圧倒的に多いのです。※1
※1 2次方程式のように一般解がわかっているような問題は少ないということです。
しかし、出てきた式がどのような意味を持っているのかを考察することで、初めてわかることもあるのです。
この本は、力学の考え方について理解したいと考えている君に最適な書籍です。
ただし、式の展開については自力で解く必要がありますので、いきなりチャレンジするのは少し難しいと感じるかもしれません。
その場合には、一度、別の書籍で力学の概要を学習してからこの本で再び学習してもいいかもしれませんね。
マセマシリーズキャンパス・ゼミの使い方
マセマシリーズのキャンパス・ゼミは、帯を見ると大学生に比較的よく売れているそうです。
近年は数学だけでなく、物理学の分野も出版されています。
マセマシリーズの最大の特徴は、大学生がつまづきやすい数式の展開について、非常に丁寧な解説をつけているところです。
マセマシリーズが出版されるまでは、式の展開でわからない部分があっても、どのようにして計算したのかが追うことができず、できる人を探さなければなりませんでした。
しかし、マセマシリーズが出版されたおかげで、このような苦労をしなくても、自分で学習できるようになりました。
また、主要なポイントに絞って解説してあるので、そうそう他のテキストと内容が外れることがありません。
ただ、マセマシリーズに関しては、数式の展開に力を入れているため、物理の本質である現象を観察し、そこから数式モデルを考え、方程式を立て、考察するといった研究に必要な部分を学ぶのが難しい構成になっています。
マセマシリーズのテキストを教科書としての位置づけではなく、数式の展開が追えないときにサポートとして使う参考書の位置づけで使用すると、効率的に学ぶことができます。