電磁気学の学習を困難にする厄介者
電磁力は自然界の最も基本的な四つの力のうちで、最もよくわかっている力です。
力の伝播は光子を介して伝わることが知られていますし、電磁力なしでは日常生活もできません。
そのくらい知られている力なのです。
物理学の2大分野とも言われています。
その一方、電磁気学を学習するに当たって、ある困難が待ち受けます。
それはテキストによって、単位系が異なるということです。
新しい本はSI単位系を用いることが多く、高校で学習したなじみのある単位系です。
この単位系の場合は、特に意識しなくても読み進めることができます。
しかし、名著と呼ばれるテキストや専攻分野によっては見通しがよいという理由で、Gauss単位系が使われていたりすることもあるのです。
単位系が違うだけなので本質的な違いはないのですが、式の形が異なり初めて学習するときには、どの形が正しいのか混乱を招きかねない状態になっています。
参考書を読む前に、どの単位系で議論しているのかを明確にして読み進める必要があります。
また、電磁気学そのものは学習済みとして、他の分野への橋渡し的な役割をしている書籍もあります。
このような理由から、電磁気学を学習するに当たって、テキストの選定は非常に重要になってきます。
電磁気学を学習する際の前提条件
初めて学習するに当たっての前提条件は、微分・積分、微分方程式という部分です。
これができた上で、
ベクトル解析
を学習していると、途中で止まることなく読み進めることができるでしょう。
上位テキストでは、フーリエ解析や特殊相対性理論の項目も入ってくるので、より上のレベルを目指すのであれば、これらの分野の学習もやっておくとよいでしょう。
おすすめの参考書
参考書を読むに当たっては、単位系に注意する必要があります。
読み始める前に、単位がどのように使われているかを定数の値や式の形から確認して読み進めるようにします。
ただ、大学学部で電磁気学を学習する場合は、SI単位系で学習するようです(他の単位系は相対性理論が絡む部分や宇宙関連といったテキストを学習する場合に多いようです)。
初めての学習なら物理入門コース
二冊分冊になっています。
テキストにはMKSA単位系で書かれているとありますが、MKSA単位系にさらに3つの基本単位を加えたのがSI単位系ですので、高校から学習した流れで学習することができます。
このテキストは古くから大学で使われているテキストです。
2017年に新装版が出版され、旧版のハードカバー版よりもぐっと薄くなったのが特徴です。
加えてKindle版も発売され、重いテキストを持ち運びしなくてもよくなりました。
ただし、旧版のハードカバー版とで内容は変わりません。
ベクトル解析の学習を終えていることが前提ですが、わかりやすい解説に努めていて、図も適度に掲載しています。
電磁気学を初めて学習するのに適したテキストです。
院試レベルまで引き上げたいときの参考書
基本的に以下に挙げる参考書レベルまでで院試対策になります。
院試は難しい問題が出るというよりも、基本的な問題が理解できているかどうかに重点が置かれるからです。
基本とはいえ、専門で学習する電磁気学のレベルはマスターする必要があります。
『電磁気学―新しい視点にたって』に変わる中級レベルの参考書
中級レベルの電磁気学の参考書として、推薦されることもあるテキストですが、残念ながら原著・翻訳本の両方とも絶版になってしまいました。
そこで、院試活では『電磁気学―新しい視点にたって』に変わる中級レベルの参考書を探しておりました。
ようやく見つけた参考書がこちら。
北米を中心に使われている中級レベルの電磁気学テキストです。
SI単位系で書かれていますが、ガウス単位系との比較については、付録Cに掲載されています。
原書は第4版まで改定されています。
演習問題も例題とともに本文中に記載されている点が、章末問題として掲載されている他の参考書と違います。
個人的には、幾何光学を除く光学(電磁波)、輻射(注:古いテキストでは放射と書かれている単元)の入門、電磁波と相対論の入門まで書かれているので、電磁気学の知識を使った他の分野への橋渡し的な役割を十分果たせるかと思います(より詳しくは専門分野のテキストを読む必要がありますが、最初に学習するテキストとしては、十分かと思います。)。
例題に関しては、書籍に記載されていますが、演習問題については、解答がありません。
しかし、インターネット上で演習問題の解答を公開しているサイトがあります。
SLIDER(Introduction to Electrodynamics, 4th Edition 英語版)
演習問題の解答については、こういったサイトを参考にするといいかもしれません。
アプローチとしては、電磁気学で必要な数学(特にベクトル解析)の説明をした後、電場、ポテンシャル、物質中の電場などを解説し、最後にマックスウェル方程式の話になります。
「グリフィス 電磁気学II」の位置づけは、電磁気学の応用(電磁波、輻射、電磁気学と相対論等)について書かれています。
なお、「グリフィス 電磁気学 I」が基本の内容になります。
目次(I巻、II巻(8から))
- ベクトル解析
- 静電気学(電場、静電ポテンシャル等)
- ポテンシャル(ラプラス方程式、多重極展開等)
- 物質中の電場
- 静電気学(ローレンツ則、ビオ・サバールの法則等)
- 物質中の磁場
- 電磁気学(起電力、電磁誘導、マックスウェル方程式)
- 保存則
- 電磁波
- ポテンシャルと場
- 放射
- 電磁気学と相対性理論
なお、原著はこちらになります。
英語版は、1冊にまとまっています。
電磁気学を深く知りたいときの参考書
マックスウェル(Maxwell)方程式がいきなり出ても大丈夫であるレベル、すなわち電磁気学を一度学習した人向けの書籍です。
またこの理論電磁気学もMKSA単位系で書かれています。
目次を見ると、
真空電磁場の基本方程式
Maxwellの方程式の一般的性質
静止物体中のMaxwellの方程式
静電場
定常電流
静磁場
準定常電流
電磁波
電磁波の放射
運動物体の電磁気学 -特殊相対論へのあゆみ-
特殊相対論
電磁場と変分原理
となっています。
電磁気学を学習するスタイルとしては、マックスウェル(Maxwell)方程式を導出するまでの流れで解説する方法と、スタート地点がマックスウェル(Maxwell)方程式から電磁場について見ていく2通りあります。
理論電磁気学は後者のスタイルです。
実は完成された電磁気学からスタートした方が見通しがよいのです。
ただし後者のようなスタイルでは、マックスウェル(Maxwell)方程式がどのように導出されたかということと、そこで使う基本的な数学については既に理解しているものとして解説が始まります。
そのため、初学者には向かないスタイルでもあるのです。
しかし一度学習したのであれば、マックスウェル(Maxwell)方程式からスタートしても数学的な知識もついているかと思いますので、読み進めることができるでしょう。
院試で電磁気学はほぼ必須とも言える教科ですので、できればこのレベルまでは学習することをおすすめします。
特殊相対論の項目については、
相対性理論 (物理入門コース 新装版)
を学習してから入るとより理解が深まります。
電磁気学をマスターしたいときの参考書
基本的に院試対策というよりも研究で使うために学習するといったレベルです。
Jacksonの電磁気学は、一度電磁気学を学んだこと、大学で学習する理工系の数学が理解できていることが前提になっています。
もともとは全てがGauss単位系で書かれていたのですが、第3版で第10章までがSI単位系で、第11章以降がGauss単位系に書き換えられています。
単位系がSI単位系になったことで、高校からSI単位系で学習してきた君にとっては、ずいぶん読みやすくなったのではないかと思います。
第11章以降は
第11章:特殊相対性理論
第12章:相対論的粒子の動力学と電磁場
第13章:荷電粒子の衝突、エネルギー損失、散乱
第14章:運動している電荷による放射
第15章:制動放射、仮想両誌の方法、放射β課程
第16章:放射減衰と荷電粒子の古典論的模型
と相対性理論の効果が効いてくる現象を考えるときの電磁気学についての記載です。
ここは研究等で必要になった段階で学習するといいでしょう。
海外の原著である参考書の場合、問題の解答がないことが難点なのですが、Jacksonの電磁気学に関しては、大学によって解答をWebに掲載しているところもあります。
Googleで以下のキーワードで検索するとよいでしょう。
jackson electricity and magnetism solution
例えば、以下のサイトで解答が掲載されています。
http://www-personal.umich.edu/~pran/jackson/
原著はこちらです。